無意識の行動だった。車のクラクションが怒鳴りつけてくるまで気がつかなかった。横断歩道の真ん中で立ち止まっていた。信号は赤だった。
学校に着いた。今日は下駄箱に上履きがあった。上履きの中に画鋲もカエルも入ってなかった。教室に行くのが億劫になった。
教室に着いた。今日は机があった。でも、机の天板は落書きに塗れていた。心ない言葉が尖った文字で生き生きと書かれていた。暴力じゃなくて良かった。
生活指導の先生に呼ばれた。先生はいい人なのだろう。本気で親身になって、切に心配してくれていることがわかった。でも、その本気が私には浅かった。
死にたいと思ったことのない人間の言うことなんて、ひとつも心に響かない。
一思いに轢いてくれたらよかったのに。
学校が終わった。夕立ちが降りしきっていたけど、私の傘はなくなっていた。ないものはしょうがない、しょうがない。
屋上に向かった。私もなくなろうと思った。彼等もしょうがないと思ってくれるだろう。
屋上への扉を開けると先客がいた。土砂降りの中、校舎の縁に立って空を見上げている。丁寧に上靴を揃えて置いていた。分かりやすい。
「あんた死ぬの?」
無意識の発言だった。突然声をかけられた先客は驚いた顔をして振り返った。
「……はい。生きててもいいことがないんです。最後くらい、自分で決めようと、勇気を出して飛ぼうと思って」
彼はそう答えた。晴れやかな表情だった。彼を見ていると、私は死ねなくなった。
「そう。邪魔してごめんね」
そう言って私は引き返した。そう言うことしか出来なかった。私如きの励ましはお節介にしかならないと知っていたから。彼と比べると、私の死にたいという気持ちは浅かった。彼のようになるまでは、私は一生懸命生きようと思った。
彼と再会するのはいつだろう。