思考記録場

日常生活の中で気になったことや、感じたこと、考えたことを記述するだけの場所。

正体不明の侵略者

正体不明の侵略者がやってきた。僕らに彼らは見えないが、彼らには僕らが見えているようで、僕らは知らないうちに彼らから攻撃を受けた。僕らに彼らは見えないが、彼らから攻撃を受けていることは感じ取れるようで、ひとたび攻撃を受けてしまった僕らはたちまち重篤な症状に見舞われたり、見舞われなかったりした。なぜ攻撃を受けた人によって症状に差が生じるのかは分からなかった。いかんせん相手は正体不明なのだから、分かることのほうが少なかった。

 

正体不明の侵略者がやってきたとき、僕らは彼らを打ちのめそうと思った。なぜだか分からないが重篤な症状に見舞われる人が一定数存在するので、彼らを救うためにも侵略者は星から排除しなければならないと思った。でもその作戦はうまくいかなかった。いかんせん相手は正体不明なのだから、打ちのめしかたが分からなかった。

 

正体不明の侵略者が倒せないと思えてきたとき、僕らは彼らと和解しようと思った。彼らと対話の方法を模索して、互いが共存できる環境の構築を模索した。でもその作戦はうまくいかなかった。いかんせん相手は正体不明なのだから、対話の方法が分からなかった。

 

正体不明の侵略者に万策尽きかけてきたとき、僕ら以外の僕らは正体不明の侵略者をあまり恐れなくなった。僕ら以外の僕らは、彼らに攻撃されても重篤な症状にならない可能性があるために、そこまで恐れる必要もないのではないかと考えていた。他にも、正体不明の侵略者よりも重篤な症状に見舞われる人が悪いと考える人や、正体不明の侵略者に勝つことはできないが、決死の覚悟で最終決戦を挑もうと考える人も現れ始めた。いかんせん相手は正体不明なのだから、みんなの考えがどれも正しいように思えたし、間違えているようにも思えた。

 

正体不明の侵略者に対する意見が僕らの中で分かれ始めたとき、僕らは僕らで争うようになっていた。誰かが「正体不明の侵略者なんて大したことないさ」と発現すれば、それを聞いた誰かが「彼らのことをなめてはいけない」と言い返し、それを聞いた誰かは「見えない相手に対して臆病になりすぎなんだよ」と罵倒し、それを聞いた誰かは「そもそも正体不明の侵略者は存在するのか」、「『正体不明の侵略者』という言葉を利用して僕らを攻撃している真の黒幕がいるんじゃないか」、「実は悪いのは僕らのほうで、正体不明の侵略者はこの星を守るためにこの星が創造した抗体なんじゃないか」と口々に言い合った。相手は正体不明の侵略者なので、どの意見が正しいのかなんて分かるはずもなかったが、僕らは言い争うことを止められなくなっていた。もはや真実などどうでもよくなっていた。

 

僕らは正体不明の侵略者への作戦ではなく、正体不明の侵略者への意見で対立する僕らへの作戦を考えるようになった。誰かが正体不明の侵略者を広めようとすれば、別の誰かがその行動を制限しようとした。するとまた別の誰かが制限の抜け道を見つけ出し、別の誰かは誰かを誹謗中傷し、別の誰かは誰かを直接攻撃しようとした。そうして互いに対抗し合い、僕らは疲弊していった。

 

正体不明の侵略者は、今の僕らを見てどう思っているのだろう。