思考記録場

日常生活の中で気になったことや、感じたこと、考えたことを記述するだけの場所。

【創作】だから、私は一人を選ぶ

「新郎、あなたはここにいる新婦○○を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」

 

「誓いません」

 

私は、病めるとき、貧しいときまで最愛の人と一緒に居たいとは思わない。苦しい時は一人で苦しみたい。わざわざ苦しみを分かち合いたいとは思えない。自分のせいで好きな人に苦しんで欲しくはない。地獄に落ちるのは一人でいい。だから私は一人を選ぶ。

 

そもそも、私の両親も上記の誓いをしたはずなのだが、今はもう仮面夫婦である。少なくとも、母は父のことを愛していないと私に何度も伝えている。二人が会話している姿は何年も見ていない。そんな両親を見て育った私が、誰かと上手く添い遂げられるとは思わない。添い遂げ方を教えられていない。だから私は一人を選ぶ。

 

私は研究者を志している。大学院は博士課程後期まで進学する予定で、卒業するのは三十手前である。残念なことに、めでたく博士号の肩書きを手に入れても、安定した職に就けるとは限らない。私は奨学金を借りているので、下手をすると借金を抱えたアラサーニートになる。不安定なこと限りなし。綱渡りを複数人でやるのは危険だ。だから私は一人を選ぶ。

 

「新郎、あなたはここにいる新婦○○を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」

 

「誓えません」

 

だから、私は独りを選んだ。